大山合宿報告

 

 

2008101113日の三日間、鳥取県大山にて日本菌学会とアマチュアきのこ研究会「幼菌の会」及び「菌類懇話会」の共催という形で国内最大級(大げさ?)の合宿が行われました。

 

 

 

11日は、昼から参加者の集合及び受付が始まりました。受付場所となったホテルのロビーでは書籍や手ぬぐい、手帳、置物といった各種グッズの販売も行われ、早くも熱気が溢れていました。

最初のプログラムは現在第一線で菌類の研究をされている先生方による講習会でした。トップバッターは菌蕈研究所の長沢先生です。「ハラタケ目の分類の変化」という題目で、DNAを用いることにより新しくなったきのこの分類体系について、その概略と、あるグループに関しては詳細の説明でした。今回の合宿の同定はこの新しい分類体系に基づいて行われましたが、果たしてこの体系はアマチュアの会で浸透するのでしょうか。形態だけで分類できないということは、大変な問題をはらんでいる様に感じてしまうのは私だけではないと思います。さらにどんどん変遷しているということで、今後の分類体系の展開が楽しみでもあります。

二番目は森林総合研究所の服部先生の「最新ではないサルノコシカケの分類」でした。サルノコシカケなどいわゆる「硬いきのこ」には縁の薄い私ですが、その顕微鏡的特徴をじっくりと説明していただくことで、多少なりとも親しむことが出来たような気がします。顕微鏡で見ても種が分からなかったのは見るべきところを見ていなかったからかも知れません。今後はきちんと考えながら見ないと、と思いました。

三番目は鳥取大学の前川先生のお話で、「コウヤクタケ分類の今と昔」でした。こちらも背着性のきのこということで、私には全く分からない分野、しかも図鑑を見てもほとんど載っていない分類群ということで縁遠いと思っていました。しかし、この仲間には樹木と共生する、菌根性のきのこも含まれます。菌根性のきのこの研究をしようと考えている私にいつかどこかで関わってくるかも知れないということで、きちんと学ばなければと思います。形が全く違うのに同じような生活をするようにどのように進化したのか、その過程を知ることが出来たら面白いですね。

四番目は、同じく鳥取大学の岩瀬先生の「菌根共生と菌従属栄養性」でした。菌根とは、という初歩的な知見から、菌根の種類、DNAの解析といった手法を用いて現在出てきた結果まで、詳しく解説して下さいました。きのこを発生させない菌類も登場しましたが、アマチュアの皆様にも菌根の多様性やその機能について多少なりともご理解いただけたのではないでしょうか。菌根菌は生態学的にとても興味深い分野です。ぜひとも皆様が興味を持って、分類も同時に進めて下さればと願うばかりです。

最後は菌蕈研究所の長谷部先生のお話で、「シイタケの原木栽培と育種」でした。国産きのこ生産の現状やその方法、将来の展望まで事細かに話していただきました。シイタケを生産するのには並々ならぬ努力が必要ということや、日本きのこセンターのシイタケ栽培に対する努力がよく分かりました。

どの先生方も非常に熱っぽく、生き生きとした表情で話をしてくださることが印象的でした。私も頑張って、先生方に少しでも近づきたいという思いをさらに新たにさせていただきました。

さて、お勉強の後は、待ちに待った、むしろこのために合宿に参加していると言っても過言ではない、夜の宴会タイムです!今回も多数の方々に差し入れをいただき、日本全土を網羅する勢いで日本酒各種がとり揃っていました。兵庫県の各きのこグループの面々は仲良く固まりながら、しかし他会との交流も忘れずに、楽しい時間を過ごしました。HPのみでその研究を拝見していた方々、お噂をかねがね伺い以前より一度お会いしたいと考えていた方々、そのような面々に囲まれ、幸せなひと時でした。今回は150名超の参加ということでさすがに全員とお話することはかなわず、まだまだお話したい方が沢山いたのが心残りです。

さて、宴会といえば余興です。何と今回はスペシャルで、根田先生プロデュースによるO君の女装が行われました!マスカラも口紅もつけてお化粧ばっちり、心なしか胸も膨らみ、何とも美しいO嬢が広間に登場した瞬間、ざわめきと感嘆が皆の口から漏れました。女の私でも悔しくなってしまうほどのかわゆらしさ。すっかり皆のアイドルと化したO嬢はポーズまできめて写真を取らせてくれました。本人にとっても周囲にとっても一生忘れられない素敵な思い出となったことでしょう。

そんなこんなで妖しくも楽しい合宿一日目の長い長い夜は更けていくのでした・・・。(O田)

 

 

 

12日は、合宿のメインとも言える観察会と同定会がありました。

 観察地は大山と蒜山に20コース近くも用意され、事前に行われた「観察地希望アンケート」によって観察地を選ぶことができます。但し、どのコースも定員が設けられており、定員オーバーした場合は先着順となります。

私の観察地は『三ノ沢』と呼ばれる大山を象徴するブナ林に決まりました。私がこの地を選んだ理由は2つあります。1つは、私は今までブナ林でキノコを観察したことがないので、今まで見たこともないキノコに出会えるのではないかと思ったこと。2つは、最近、ひょんなことから地下生菌に興味を持ち、ブナと菌根を形成する地下生菌を探してみたかったことがあります。しかも、これは観察会の後で知ったことなのですが、三ノ沢は地下生菌で有名な故・吉見昭一先生もよく訪れた場所とのことです。

 

危険なコースを歩く参加者

朝食を済ませると、宿泊施設からバスを利用して、観察地である三ノ沢へ到着しました。このコースの案内人である前川二太郎先生から始めにコースの説明があり、その後、それぞれの方向へ分散していきました。この日の大山は肌寒く、最近雨でも降ったのか土壌も湿っていました。また、我々のような合宿参加者以外にも地元の方々もキノコ狩りをされており、絶好のキノコ観察日和ではないかと思いました。しかし、実際探してみると、思いのほか発生は少なく、硬質菌や小型の菌類が見つかるくらい。だけれども、ここで好き嫌いは禁物。せっかく、さまざまな分野の先生方が集結しているのだから、どんなキノコであれ採取しないと勿体ないと思い、見つけたキノコは全て地道に採取していきました。地下生菌を目当てに地面を掘ったりもしたのですが、土壌が岩盤質で、掘っても出てくるのは石ばかり。私の探し方が悪かったのか、探すポイントが悪かったのか、まだまだ自分の未熟さを痛感しました。なかなか中型以上のキノコが見つからず、観察会も終盤に差し掛かったころ、斜面を登りきった場所に大きなムラサキ色のキノコが目に留まりました。その美しい淡紫色で、根本が膨れずっしりとした様はまさしく図鑑で見るようなムラサキシメジでした。以前から一度採取してみたいと思っていたキノコなのですが、晩秋に発生するという固定観念があったので、予想もしておらず思わず歓喜。続けて同じく一度見てみたかったチャナメツムタケも発見し、これまた嬉しかったです。

 

アカチシオタケ

 

結局、私はこれらの他にも15種程度採取したのですが、殆ど名前が分からなかったので、次の同定会で調べることになりました。今までキノコの観察をしたことのある場所と地理的な位置や植生が違うためか、殆どと言っていいほど初採集のキノコばかりでした。他の同じコースの方々は巨大やマスタケやシイタケなどを採取されていたことが印象的です。

ムカシオオミダレタケ

ニカワツノタケ

 

サンゴハリタケ

アラゲコベニチャワンタケの仲間

 

観察会が終わると、ホテルに戻り同定会が催されました。この同定会の一番の特徴は、最新の分類体系に基づいて分類が行われる点です。最新の分類体系表は既に参加者に配布されており、これに従い採取したキノコを同定台の所定の位置に持っていきます。この分類体系表は「Dictionary of the Fungi, 10th Edition」よりも最新のものらしく、これだけでも非常に価値のあるものだと思います。分類したキノコを同定台に持っていく時、「同定カード」と呼ばれる用紙に記入し、それも一緒に持っていきます。同定カードには採集したキノコの採集地や科名、同定者名などを書く欄があり、後のデータ整理に用います。

 同定会場は異様な熱気に包まれ、図鑑を見て同定する人や、同定台に置かれたキノコを観察する人、先生に直接お伺いする人などで溢れていました。私は図鑑を取り出し、採取したキノコの同定をしていきました。これだけでも一苦労なのに、これを目的とする同定台へ持っていく作業が結構大変でした。というのも、最新の分類体系で分類するにあたり、これまでの図鑑の分類体系の常識とは全く違う部分があるからです。例えば、手持ちの図鑑では「ホコリタケ科」に属しているキノコでも同定会では「ハラタケ科」の場所に持っていかなければなりません。特に図鑑に載っているヒトヨタケ科や冬虫夏草属がえらい変わってます。恐らく、現在は分類の過渡期なのでしょう。しかし、参加者の中にはレベルの高い方々が大勢おられたので、いろいろお伺いすることで比較的スムーズに同定を行うことができました。Ombrophira sp.、ナヨタケsp.……。まだまだ浅学に私にとって、自分の採取したキノコが判明するということはこの上ない喜びであります。

 

Ombrophira sp

ヒョウモンウラベニガサ

 

同定が一段落すると、同定台に置かれたキノコを観察して回りました。合宿には160人以上もの人々が参加したこともあって、同定台にはびっしりとキノコで埋め尽くされていました。ナメコ、ツキヨタケ、ムカシオオミダレタケ…。列挙すればキリがないないです。

私は色々な人にお伺いしながら、メモをとりました。もう本当に周りにいる人が全て先生という感じでとても勉強になります。

 夕食後、同定会場では同定の続きやDNA採取、標本撮影、乾燥標本作製などが行われ、私はDNA採取に初挑戦しました。方法は、FTAカードと呼ばれる用紙を用意し、その上からキノコを押しつぶして抽出液を染み込ますというとてもシンプルなものでした。しかし、DNAの採取は簡単にできるものの、それを解析することは個人では難しいところです。そのため、アマチュアの方々とプロの方々が協力していくことが、日本の菌類研究の発展のためにも必要ではないかと思いました。

 同定会は予定を大幅にオーバーし、なんと深夜2時頃まで続きました。私はその後、合宿で初めて出会った方々に分離培養を教わったり、キノコの整理の手伝いをしたりしました。これだけ長時間に及んだにも関わらずまだまだ話足りなかったぐらいで、今でもあのキノコについてもっと聞いてればよかったと後悔。そんなこんなで就寝したのが早朝の4時。当日歩き回った疲れと合宿1日目の懇親会ではしゃぎ過ぎてしまった疲れも重なって、ぐっすりと寝ることができました。(O前)

 

 

 

いよいよ合宿も今日で最終日です。

まず、この合宿の総まとめということで主催者の方々の挨拶がありました。合宿での思い出が色々と思いだされます。続いて、合宿に集まった全国各地のキノコ会の方々の挨拶がありました。初めて全国各地にキノコ会が多くあることを知り、それぞれの会でいろいろな特色があるようで面白かったです。我が兵庫きのこ研究会からは山上さんが代表で挨拶をされました。少し緊張した(そうでもない?)面持ちで、我が会の楽しさについてアピールされていたことが印象的です。

まとめ会が終わると、全員が外に集合して記念撮影が行われました。写真に納まりきるのか不安なくらいの人の多さに、今回の合宿の規模の大きさを改めて感じました。

記念撮影が終わり、これにて大山合宿の全プログラムが終了しました。ただし、希望者には鳥取市の菌蕈研究所を見学することができます。1011日〜1013日の3日間催された大山合宿ですが、気がつけばあっという間でした。私は多くのことを勉強することができたのはもちろん、多くの有名な方々とお話しすることが出来たり、自分自身への刺激となったりと非常に有意義なものでした。私はこの合宿で学んだことをフルに生かして、これからの研究に精力を注いでいきたいと思います。(O前)

 

総勢100名を超える参加者の集合写真

 

 

文 O田、O

写真 さんじょう

作成 買うとく