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#13284
匿名
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 MoMoさまは「種」の定義に非常にこだわりがあるようにお見受けいたしますが、「属」の定義・「亜属」の定義・「節(せつ)」の定義・「亜種」の定義・「変種」の定義・「品種」の定義、といった、「種」より上位のランクまたは「種」よりも下位のランクに置かれた分類単位(=タクソン)にも視点を向けていただきますと、「種」の定義は難しいという点は多少とも実感していただけるのではないかと感じます.

それはさておき.タイワンザルとニホンザル,コーカソイドとニグロイドは、同一の「種」の中に含まれる「亜種」として扱うのが妥当ではないかと考えます。やや古典的な定義ではありますが、「亜種」とは、「ある一つの種において見出される『異なった表現型を備えた変異群』が、個々の変異群ごとに異なった地理的分布を備える場合、各々の変異群を『亜種』と呼ぶ」とされています。
 ネグロイド・コーカソイド・モンゴロイドは、いずれも「ヒト」という種に包含されますが、生物学的生息地域の環境(紫外線量・気温・空中湿度その他)によって、異なる表現型を備えるに至った亜種群とみなす意見が有力です。また、「亜種」を、「未分化な種(今後、長い期間-何万年という単位の-を経れば、個々に独立した種となる可能性を持った個体群)」と定義する意見もあります.

 つけくわえれば、動物には「変種」あるいは「品種」といったタクソンは存在しません(ヨークシャーもバークシャーも、生物分類学上ではすべて「ブタ」であって、「品種」ではありません.生物分類学上の「品種」と、畜産や園芸上での「品種」とは、まったく定義が異なることにご留意を).細菌には「亜種」・「変種」・「品種」を設けることは禁じられています.植物と菌類については、「亜種」・「変種」・「品種」といった、「種」以下のタクソンを設けることが命名規約で認められており、さらに菌類では「分化型(forma specialis)」というタクソンも多数作られています.動物と植物と菌類との間で、「種」の定義は異なります.

 >本当にそうなら、篠山の松茸は別種として登録されるべきではないのかと…

 もし本当に「篠山のマツタケ」ではツバが真っ黒であったとしても、それだけを根拠に「別種」としたら、多くの菌学者からは根拠が薄弱すぎると攻撃されるでしょう.「人間でも、肌の色が白かったり浅黒かったりするじゃないか!」とか、「目が緑色の猫と、目が青い猫とを、それぞれ別種として登録するのか、お前は?」とか、「天然物の褐色のエノキタケと、栽培ものの白いエノキタケとは別種なのか!?」とか.
 「地上にきのこが出てきてから、直射日光に当ってつばが黒ずんだのじゃないのか?」とか反論されるかと思います.

 きのこが幼いか古いかに影響されず、多雨環境で生育したのか乾燥条件下で生育したのかにも関係なく、常に現れる『特徴(=表現型)』でなくては「種」をはじめとするタクソンの識別には使えませんので、黒ずんでいるかどうか、だけを根拠にして「篠山のマツタケ」を独立種にしたら笑いものになるでしょう.

 また「登録」との表現も、これこそ生物学の分野では使用禁止といってもいいと思います.思うに、MoMoさんは、「学会の認定(お墨付き)が出て、学会の公式リストに掲載されること」という意味で「登録」と表現されたのでしょうが、学会は、植物学会にせよ、貝類学会にせよ、魚類学会・土壌動物学会・昆虫学会、あるいは菌学会にせよ、その種の認定も下してはくれませんし、公式リストも作成してはくれません.その種の業務は、地上のいかなる学会も行っていません(各学会の会則において「当学会の目的と活動」という項目があろうかと思いますが、たとえば日本菌学会でも、「当学会は、菌類の『種』の認知を行う」などという記述はまったくしていません).

 結論.MOMOさまは、言葉遊びをしているだけのようにも感じます.菌類分類学で(たまに)お金をいただいている私としては.「進化論」・「中立説」・「系統進化」・「分子系統学」に関する成書、および「藻類・菌類・植物の国際命名規約」を精読されてはいかがかと感じます.

 私見ですが、篠山のマツタケのケースのように、単に色が違う程度で「別種」にするなどというのは、私は怖くて出来ません.色の違いが含有色素の構造の違いによる、などというのならまだしも、ですが.

 
Written by 一分類学者

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